正規雇用者と比べると非正規雇用者は不安定で賃金が安く、能力開発の機会も少ないように見受けられます。厚生労働省の発表によると非正規雇用労働者は、平成6年から平成29年まで緩やかな増加傾向にあります(※1)。平成29年の非正規労働者数は2036万人で役員を除く雇用者全体の37.3%に上っています(※1)。
厚生労働省では少子高齢化が進行しどんどん労働力人口の減少が予想される中で、非正規雇用労働者の正社員転換・待遇改善を推し進めるための施策の一つとして「キャリアアップ助成金」を実施しています。有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員への転換、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。
本記事ではキャリアアップ助成金の詳細と受給条件や受給までの流れを詳しく説明していきます。
特に中小企業には手厚い施策となっていますので条件を把握して是非申請を検討しましょう。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、企業内において有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用の労働者向けにキャリアアップの取り組みをした事業主に助成金を支給する制度です。企業の取り組みごとに8つの助成金コースを制度化しています(※2)。
コースの中の一つに、有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成される「正社員化コース」があります。
キャリアアップ助成金の受給額は事業規模や取り組みで生産性が高まったかどうかで変わりますが、 有期契約雇用者が正社員に転換した場合、従業員一人当たり54万円が支給されます。その他、勤務条件や処遇に関してのコースでは有期契約労働者等に職業訓練を実施した場合に助成する「人材育成コース」、有期契約労働者等の基本給を増額改定し昇給となった場合に助成する「賃金規定等改定コース」、賃金・諸手当の規定を正社員と共通化すると助成される「賃金規定等共通化コース」「諸手当制度共通化コース」があります。
有期契約労働者等に対する社会保険拡充への取り組みに対する助成金は3コース用意しています。
法定外の健康診断制度を有期契約労働者等向けに新たに規定して実施した場合に助成する「健康診断制度コース」、労使合意で社会保険適用を拡大し、新たな被保険者として有期契約労働者等の基本給を増額した場合に助成する「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」、そして短時間労働者の所定労働時間を延長して社会保険を適用した場合に助成する「短時間労働者労働時間延長コース」があります。以上8つのコースに基づき、該当する取り組みを行った企業に対して助成金は支給されます。
支給対象事業主の要件
助成金の支給対象の事業主となるには、全コースに共通のいくつかの要件を満たさなくてはなりません(※2)。
まずは雇用保険適用事業所の事業主であることです。二つ目は事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を置いていることです。キャリアアップ管理者とは、有期契約労働者等のキャリアアップに取り組む者として、必要な知識・経験を有していると認められる者のことで、企業が事業所ごとに設けなくてはなりません。三つ目の要件として、事業所ごとにキャリアアップの対象労働者に対して「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の受給資格認定を受けることです。
キャリアアップ計画とは有期契約労働者等に明確で具体的な過程を示した上で、キャリアアップを計画的に進めるために策定する計画です。助成の対象となることを証明するための書類を整備していること、キャリアアップ計画期間内に計画に基づいた取り組みを行っていることも必要です。
以上の5つの要件に加えて各コースの取り組み内容がキャリアアップ助成金の支給要件として規定されています。
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説助成金受給までの流れ
キャリアアップ助成金の受給には、まずキャリアアアップ計画を作成する必要があります。労働局やハローワークの作成援助を受けながら計画書を作成し、それを労働局に提出します。人材育成コースでは従業員にどういった訓練を誰に行うかなどを決めた訓練計画届けを作成し、労働局に提出します。訓練計画届けを提出した後、その計画をもとに企業内で訓練を実施して訓練終了後にキャリアアップ助成金の支給申請に移ります。審査を通過し支給決定となれば国から助成金が支給されるという流れです。
人材育成コース以外のコースではキャリアアップ計画の提出後、計画期間内に各コースの取り組みを実施すれば助成金の支給申請が可能となります。
最初の関門「キャリアアップ計画」の作成
キャリアアップ助成金の申請にあたって、どのようなキャリアアップ計画を作成するかが最初の関門になります。計画の作成時には有期契約労働者や無期雇用労働者の意見が反映されるように、労働組合等の意見を聞く必要があります。
キャリアアップ計画には有期契約労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、大まかにでも対象者や目標、期間、取り組み内容を記載します。
この計画は3年以上5年以内の計画期間を定めることとされています。
そしてキャリアアップ助成金の取り組みを計画期間中にどういった流れで進めていくかについても記載の必要があります。キャリアアップ計画はあくまで当初の予定を記すものですから、後から計画を変更することもできます。
キャリアアップ計画書の提出から始まる助成金の申請手続きですが、申請代行を行う社会保険労務士などに相談すれば、アドバイスをもらいながらスムーズに助成金の申請ができることはいうまでもありません。
キャリアアップ助成金で事業活性化を
キャリアアップ助成金は、有期契約労働者等の非正規労働者のキャリアアップに積極的に取り組む事業主に対する助成金です。8つのコースが設けられているので、各事業所の状況に合わせて取り組みを選択して申請が可能です。事業主にとって活用しやすい施策といえるでしょう。
助成金を活用した取り組みで優秀な人材が育てば、その効果は助成金の額を超えた利益を会社にもたらすことになります。長期的な視点に立ち、これから優秀な人材を正規社員として雇いたいなどと検討されている事業主の方は「キャリアアップ助成金」の活用を一考するのをおすすめします。
おわりに
キャリアアップ助成金は、平成30年4月から「正社員化コース」、「賃金規定等共通化コース」、「諸手当制度共通化コース」について、支給要件・支給額などの見直しが行われています。(※3)
キャリアアップ助成金を含め雇用関係の助成金は毎年度変更がありますので、まずは社労士など助成金申請代行を行っている専門家に相談してみましょう。