昨今、働き方改革による長時間労働の規制や少子高齢化によって労働力不足が問題です。そのため、従業員一人ひとりの生産性アップと人材育成は急務という状況。
そこで活用できるのが人材開発支援助成金。従業員のスキルアップために、職業訓練や人材開発制度を導入すると費用の一部が助成される制度です。
平成30年4月にはコースの統合・廃止が行われ、平成31年4月には新たに支給要件の追加も行われています。これまでの制度との違いをはじめ、助成金を受給するための条件や注意点など詳しく解説していきます。
目次
人材開発支援助成金とは?旧キャリア形成促進助成金との違い
人材開発支援助成金とは、平成29年4月にキャリア形成促進助成金から変更になった、労働者の知識習得やキャリア形成を目的とした制度です。
毎年、制度やコースの変更があるため、申請の前に基本要件は随時確認するようにしましょう。
事業主が雇用する労働者(有期、派遣、短時間契約を除く)に対し職業訓練を実施したり、人材育成制度を導入したりした際に助成金が支払われます。助成金として支払われるのは訓練にかかった費用や訓練期間中の労働者に払う賃金の一部で、支給額はコースに応じて異なります。
キャリア形成促進助成金からの主な変更点は、生産性要件が新たに設けられたことです。生産性が3年前の年度から6%以上伸びることで要件が満たされ、助成額は増額されます。その生産性要件は計算式で求められますが、厚生労働省のホームページに掲載されている「生産性要件算定シート」でも算定できます。
もう一つの主な変更点は、4つあったコースのメニューが「訓練関連」「制度導入関連」の2つに統合されたことです。
これまでの各訓練メニューは、訓練関連の特定訓練コースと一般訓練コースに統合されました。そして中小企業の導入事例の多い制度導入関連で加えられたのが業界検定、反対に廃止されたのが「教育訓練・職業能力評価制度」です。業界検定を含む各制度は、「キャリア形成支援制度導入コース」と「職業能力検定制度導入コース」に再編されました。(※1)
どんな制度を導入すれば助成金を受けられる?支給対象の要件とは
人材開発支援助成金を受けるには、コースによってさまざまな要件を満たさなくてはなりません。「訓練関連」の特定訓練コースでは10時間以上、一般訓練コースでは20時間以上、職務に直接関連する訓練を実施することで要件が満たされます。海外の訓練施設(大学、大学院、他教育訓練施設など)での実施には30時間以上が必要です。
特定訓練コースには、自社の生産性向上のための訓練である「労働生産性向上訓練」や、雇用契約をして5年以内の35歳未満に対する訓練を行う「若年人材育成訓練」の2種類を含む、7種類の特定の訓練があります。この特定訓練に指定されていない、事業主や事業主団体などが行う訓練が一般訓練コースです。
一方、「制度導入関連」のキャリア形成支援制度導入コースでは、「セルフ・キャリアドック制度」と「教育訓練休暇等制度」の導入と実施が必要な要件になります。
「セルフ・キャリアドック制度」とは、従業員に対して、ジョブカードを活用したキャリアコンサルティングを定期的に実施する制度です。このキャリアコンサルティングは、国家資格を取得しているキャリアコンサルタントが担当する必要があります。昨年度からの制度の改正で助成金の申請時に作成する計画書にキャリアコンサルタントの証明が必要になりました。つまり申請時からキャリアコンサルタントが関わっていく、ということです。
「教育訓練休暇等制度」は、事業主以外が行う教育訓練やキャリアコンサルティングを受ける際に必要な休暇や勤務時間の短縮を定める制度です。セルフ・キャリアドック制度と教育訓練休暇等制度ともに、就業規則か労働協約に規定し、実施する必要があります。
制度導入関連のもう一つのコース、職業能力検定制度導入コースでは、技能検定合格報奨金制度や社内検定制度を導入し実践した場合が対象です。また業界検定制度を構築し、受検させた場合も助成対象になります。(※1)
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説人材開発支援の各訓練の助成金額はいくら?
特定訓練コースの助成金は、OFF-JTとOJTで金額が異なります。
OFF-JTとは、職業訓練施設などで行われる職場外の訓練で訓練形態は座学がメインです。
OJTは職場内訓練と訳されるように職場での日常業務の中で行われたり、実習をともなったりします。
特定訓練コースのOFF-JTを従業員に受講させた場合、受講した労働者1人1時間当たり760円(生産性要件を満たす場合は960円。以下()内は「生産性用件を満たす場合」)の賃金と、かかった経費の45%(60%)が助成されます。例えば、入社2年目の若手社員にコンサルティング技術を習得させるため、教育訓練機関での研修を受講させたとします。
1人当たりの訓練時間が40時間、受講料が10万円かかった場合の助成金は、特定訓練コースの若年人材育成訓練に該当するので、賃金分の助成が40時間×760円で30400円、経費分の助成に受講料10万円×45%の45000円を受けられます。特定訓練コースは、訓練計画書を提出する前に厚生労働大臣の認定が必要ありますので注意しましょう。
そして一般訓練コースは、受講した労働者1人1時間当たりの賃金分の助成額は380円(480円)、かかった経費分の助成率は30%(45%)になります。この場合、1人当たりの訓練時間が20時間、受講料が5万円のコンサルティング講座の受講で受けられる助成金は、賃金分の助成が20時間×380円で7600円、経費分の助成は受講料5万円×30%の15000円です。
一方、制度導入関連の助成額は、「キャリア形成支援制度導入コース」も「職業能力検定制度導入コース」も、一律で47.5万円(60万円)と定められています。
どちらのコースも雇用保険の被保険者数により、制度が適用される最低人数(雇用数50人以上なら最低5人など)と、教育訓練休暇として与える制度適用の最低日数(雇用数50人以上なら最低25日以上など)が決められているので、申請する際はそれをクリアする必要があります。両コース受給可能なため、制度の条件を満たせば最高120万円の助成金を受けることも可能です。
メリットは助成金だけではなく、労働環境の改善によって離職率の低下も想定できるため、コスト削減効果も期待できます。(※1)
申請や導入する際の注意点は?
人材開発支援助成金の申請をする際は、申請時に雇用保険の被保険者数分の雇用契約書(被保険者であることを確認できる書類)を準備する必要があります。
キャリア形成支援制度コースの受給は、1事業主に1回のみとなっています。したがって、リニューアル以前に「企業内人材育成推進助成金」や「セルフ・キャリアドック制度」の助成金を受給している場合は人材開発支援助成金であるセルフ・キャリアドック制度での受給はできません。
その他に注意すべき点は、人材開発支援助成金の受給には訓練計画書の作成や実施、相談や指導を担当者として行う職業能力開発推進者を選任する必要があることです。
厚生労働省のサイトでは教育訓練部門の部課長か、労務や人事、総務担当部課長が望ましいとされています。他にも人材開発支援助成金制度導入適用計画届などの他、さまざまな添付書類が必要です。日常業務で忙しい場合や申請手続きが不安な場合は、助成金専門の代行業者に依頼や相談をすると書類作成時の見落としを防ぐことができます。
おわりに
人材開発支援助成金を受給するためには注意すべき点もありますが、従業員の技術力や企業の生産性の向上を目指すことができるなど、メリットも大きい制度です。従業員と会社の将来のためにも導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。(※2)
人材開発支援助成金は平成31年4月に改正が行われ、一部制度の統合や廃止がされております。
また、4月1日以降に助成金申請を行う場合には、助成金支給の適正化のために従来の資料と共にジョブカードの写しが必要となりました。
詳細は厚生労働省のホームページをご確認ください。